本を通じて地域の知的生活向上に貢献し
人の歴史と未来の足取りに寄与します

新榮堂書
今昔物語

新栄堂書店は終戦後の間もない1946年(昭和21年)1月、柳宗次によって現在の池袋東口駅前に創業されました。昭和20年、宗次は香港の軍需工場の軍属として務めていたところ8月に終戦を迎え、博多の雁の巣から馴染みの池袋に帰ってきたところ、以前に勤務していた理化学系出版社は無くなっており一心、書店起業を決意。宗次とシゲミは、まだ焼け跡が夥しく荒廃し闇市が横行していた街に、シゲミの実家(現/タカセ)からの6坪4合8勺の土地で、雨風は焼けトタンと葦簀で凌いで、ミカン箱の上に戸板を乗せて本を並べ、開店をしました。

昭和22年頃

当時、本は配給制で、信用のない素人が新しく口座を開くことは難しい時代でしたので、屋号は大塚の廃業中だった新栄堂書店から一月100円で借り、その後譲り受けました(現 新榮堂書店の看板は書家の矢代源司/雅号(素川)先生によるもの)。宗次は、左に巣鴨プリズン(現/サンシャイン)を横目に護国寺の坂(から出る湧水で休憩をとったと聞く)を経て神田の問屋街まで自分で探書した本を買付けては往復リヤカーを引き、焼け残った本を集めてはリュックや風呂敷にも詰め、店頭に並べました。人々は戦時中の言論統制の反動もあり、何か心の飢えを情報や娯楽に求めていました。物資は少なく(紙とて同様)物不足でインフレも激しく周りでは値上げして売る市場もある中、問屋からは配給の少ない人気の本はなかなか卸してもらえず、どうにか頼みこんで定価/現金で仕入れてそのまま定価で販売をすることもありました。冬場の朝の2時から並んで待って頂くお客様、徹夜しても買っていきたいお客様、そんなお客様にシゲミは火鉢を外に出して、暖をとってもらい並んで順番に買ってもらいました。そうやって少しずつ実績と信用を増やしました。希に、お金のない学生さんに「汚さずに返してくれればよい」と貸して上げたこと(私がレジをしていた頃、この時の御礼を数人のお客様からいただいた)もありました。「おやっさん あの本 よかったよ」と再来店してくれるのが嬉しかった。一冊の本によって結ばれる人のおもいを胸に、お客様の後ろ姿をホッとした気持ちでお見送りしたのでした。店は、高度経済成長と池袋の発展と共に、また池袋東口(現在のグリーン大通り)は都電の発着駅であったため利便性は高く、多くのお客様、そして大勢の従業員に支えられ繁盛をしました。当時のお客様は学生や教授が中心で、著名な作家や出版従事者の方々にも多くご利用いただきました。

昭和29年頃

その成長を糧に、二代目の功は、昭和の40年代には駅ビルやデパートに、また昭和の終わり頃からバブル景気を追い風に「知と遊と。」をスローガンに郊外のロードサイドにも出店を加速し、チェーンオペレーション経営として業容を拡大し、池袋界隈では「西の芳林堂・東の新栄堂」と呼ばれるほど、多くの人に親しまれました。過去に藤沢 小金井 池袋地下街 大宮 いわき 亀戸 サンシャイン 所沢 坂戸 古河 熊谷 新宿 と出店の際には、多くの問屋と出版社からのご支援を賜りました。

当時のキャッチコピー

しかし、時代は昭和のソロバンからコンピュータ、平成に入りマルチメディア、インターネットそしてIT、AIへと急激に規格が変わって行きます。街には新栄堂を遥かに凌ぐ巨大な書店が幾つも出現し、またネット速度とデバイスの進化によりオンラインショップや動画が台頭し、業容の見直しは急務となりました。折からの借財もあり、現三代目の私は平成10年頃より事業の再構築に着手することになります。シンガリのように徐々に支店を撤退すること難を極めましたが、遂には創業地の駅前本店を平成18年に手放すことにより、目処をつけました。以降は不動産管理業も並行しながら、平成20年に大宮ルミネ店を閉めた後に新宿西口パークタワービルに支店を開設。平成29年には池袋サンシャイン店を閉め、同時に、多くの文豪が眠る雑司ヶ谷近くの南池袋は、ここ東(あずま)通りにて、新たに「新榮堂書店」の看板を掲げる運びとなりました。1階は小さくベスト&セレクトショップ、地階は読書サロン「19/Ikkyu」です。どうぞ、ゆっくりとお過ごしください。

平成18年

時代と共に新榮堂書店にお越しになるお客様も段々と変わって参りましたが、時折、昔を懐かしむお客様がご来店いただくことは幸甚であります。モノが溢れ情報スピードが急な昨今、ややもすると、人の情緒や先人が積み上げた文化や歴史が置いてきぼりになりそうな中、当社はまだまだ紙の本の役割は大事かと考えます。とはいえ、果たして「本屋」は必要なのだろうか?それを常に自問自答しながら、恩地孝四郎 装幀のブックカバーを纏い、これからも地域のお客様と接しながら誠実に営業をしていきたく存じます。これからもどうぞ、宜しくご贔屓のほど、お願い申し上げます。

現在の新榮堂書店(南池袋)
代表取締役 柳内 崇
昭和22年頃
昭和29年頃
当時のキャッチコピー
平成18年
現在の新榮堂書店(南池袋)